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大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)270号 判決 1971年10月28日

理由

原審の記録によると、次の事実が認められる。

本件は、手形訴訟として被控訴人により提訴され、大阪地方裁判所昭和四五年(手ワ)第二、三二〇号事件として係属した。

原裁判所が、第一回口頭弁論期日を昭和四六年二月二日午前一〇時と指定したところ、その前日である同月一日に、控訴人代理人から、答弁書と期日変更申請が原裁判所に提出された。右答弁書には、前記事実欄に記載したとおりの控訴人の請求原因に対する認否と抗弁が記載されている。

右第一回口頭弁論期日は開かれ、控訴人代理人が欠席したので、右答弁書が陳述したものとみなされ、被控訴人が、通常手続に移行の申述をして、訴訟は通常の手続に移された。ところが、原裁判所は、即日弁論を終結して、判決言渡期日を同月一六日午前一一時と指定、告知し、その指定の日に原判決が言い渡された。

その間訴訟が通常の手続に移行した旨を記載した書面が控訴人に送達された形跡は、記録上見当らない。

以上の事実が認められる。これに反する証拠はない。

民訴法四四七条二項及び四四八条によると、手形訴訟が、被告の出頭していない期日に、原告の申述によつて通常の手続に移行したときは、裁判所は、直ちにその旨を記載した書面を被告に送達することを要するが、被告が、口頭弁論において原告の主張した事実を争わず、その他何らの防禦の方法も提出しない場合には、右書面を送達する前に口頭弁論を終結してもよいこととされている。したがつて、その反対解釈として、被告が、原告の主張した事実を争い、抗弁を記載した答弁書を事前に提出していて、これが口頭弁論期日に陳述したものとみなされた本件のような場合には通常手続に移行した旨を記載した書面を被告に送達する前に口頭弁論を終結することは、許されないものと解すべきである。

右制度の趣旨は、手形訴訟手続においては、厳重な証拠方法の制限がなされている反面、手形判決につき当事者に異議申立権を与えているのに対し、通常手続に移行した後は、証拠方法の制限がなくなるかわり、その判決に対する不服申立は控訴によるべく、第二審へ移行することとなるから、原告に、被告の承諾を要せず通常手続への移行の申述をする権限を与える反面原告がその権利を行使したときは、これを被告に知らせて、被告にも平等に第一審において攻撃防禦の機会を与えようとするものである。

したがつて、本件における原審の訴訟手続は、民訴法四四七条二項、四四八条に違背し、控訴人の意に反してその審級の利益を奪うものであつて、原判決に影響を及ぼすことの明らかな重要な訴訟手続違背であるといわねばならない。

よつて、その余の点につき判断するまでもなく、原判決は取り消しを免れず、かつ本件の場合には、審級の利益を尊重し、なお原審において弁論をなさせる必要があるから、民訴法三八九条一項により、本件を大阪地方裁判所に差し戻すこととする。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 入江教夫 高橋欣一)

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